ひとりでしにたい

 久しぶりに面白くてタメになる終活本に出会えた。実用書でもなくエッセイでもなく、エンターテイメント(というと語弊があるかも)として「終活」が取り上げられるようになったことに感慨もひとしお。絵はちょっとアレで、そこでシャットアウトしちゃう人もいるかもしれないんだけど、そこを乗り越えて全日本人女性に読んでもらいたい。

 主人公は30代半ばの女性。学芸員でアイドルオタクでねこを飼っている。憧れていた伯母さんが孤独死(風呂で液体になる)したことをきっかけに婚活を目指すも、挫折。また結婚したからと言って老後が安泰というわけでもない現実と向き合うことで、終活へと方向転換する。彼女の最終目標は「ひとりで生きて ひとりでしにたい」と「孤独死して腐って発見されないこと」。これはおひとりさまの終活の核心を突いた言葉ではないかと思う。

 私が思うこの本の新しさは、ライフプランの中で終活を考えていること。
 終活っていうと大体高齢者一歩手前から考えたり、癌で余命が告げられて初めて意識したり、両親の終末期のアレコレで「やっといてくれたらよかったのにっ!」と恨んでみたり。終活は死を目前にした人のもので、若い私のものではない、という意識が一般的。私のような専門家が口を酸っぱくして言っても、いつまでも他人事としてとらえられる。コロナですこし風向きが変わったような気はするけれども。

だけど、この本の説得力はすごい。そしてグサグサくる!
自分事としての終活が描かれる。金言がたくさん。

「孤独と不安は人間を馬鹿にしてしまう」

「大丈夫は孤独死の始まり」

は老若男女問わず真実だ。

 そして奨学金を借りなければ大学に行けない現実や、職業によっての収入格差、老後自助2000万問題など、10代後半から退職間近な世代までの経済問題にも触れている。

 孤独死をしても腐って発見されないためには、人とつながることが大切。人とつながるには適切な場所に「助けて」といえることと、生きることに希望と責任感を持つこと(主人公にとっては「推しのアイドル」と飼い猫の魯山人)。
 私も年をとっても楽しく趣味を謳歌したいし、適切な対策を取っていつまでも猫と暮らしたいと思う。

ヘヴィな現実を軽やかにマンガに乗せて描く一冊。続編も楽しみ。

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